アメリカのNational Disaster Medical System ( NDMS ): アメリカ合衆国災害医療システムの組織・機能の概要について

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目   次

National Disaster Medical Systemとは

NDMS設置の背景

NDMSの目的

NDMSの対応想定災害と病院収容能力

NDMSの管理区域

NDMS調整センターの機能

災害医療援助チーム(DMAT)の組織と機能

NDMS と医療施設

NDMSでの活動支援

NDMSへの関係団体支援体制

NDMSの活動開始と活動調整

NDMSのシステムと運用のポイント

1.National Disaster Medical Systemとは アメリカのNational Disaster Medical Systemは、アメリカ保健・福祉省( HHS)、 国防省( DoD)、退役軍人省( VA )及びアメリカ緊急管理庁( FEMA )並びに地方政府 及び民間部門の協力体として、組織され運用されている。 2.NDMS設置の背景  ( 1)近年における医療提供コストの上昇が、海外での紛争に伴う大量殺傷への医療     提供の維持が、国防省および退役軍人省において困難となってきたため、     1980年、国防省は民間−軍偶発対応病院システムを設置し、軍の病院 システムと民間のボランタリーベースの参画による病院のバックアップシステム の導入を行った所にその起源がある。従って、アメリカのNDMS は軍の医療 提供システムをベースにしたものと言え、これは国内外の災害医療提供システム を主要任務とする現行の組織と運用においても軍の参画が基本部分を構成して いることに反映されている。  ( 2 )翌1981年、大統領が、緊急住民移動対応委員会( EMPD)を設置し、このなかで     保健計画の策定が保健ワーキンググループに付託された。このグループの議長は、      保健・福祉省次官であり、メンバーとしては、国防省、退役軍人省、FEMA及び     保健・福祉省の保健医療財政行政担当部門で構成されていた。NDMSはこの     ワーキンググループにより策定・開発されたものである。 ( 3 )このワーキンググループはNDMSの設置に伴って、NDMS上級方針グループ( SPG )に置き換えられた。このSPGは、議長が保健・福祉省次官であり、メンバー    は、国防次官、FEMA長官及び退役軍人省次官で構成されており、NDMSの全体の    方針・計画及びその他の保健・医療対応方策の決定を行う権限を有している。       なお、このNDMSの決定機関の意志決定については、アメリカ国家安全保障委員会    ( NSC)及び国内方策委員会( DPC)のガイダンスの基におこなわれものとされており、        総合的な国内外政策との調整が図られ、機能するよう配慮されている。       大統領      国家安全保障委員会     国内方策委員会         NDMS 上級方針グループ 3.NDMSの目的  ( 1)災害医療援助の提供−災害医療援助チーム( Disaster Medical Assistance Teams : DMATs )及びクレアリング−ステージングユニット( Clearing-Staging Units : CSUs, 災害医療援助チーム3チームで構成され、指揮・援助機能が強化された    大規模災害への長期間対応が可能な医療援助ユニット)の派遣、医療資材・機器の    災害被災地域の提供・投入  ( 2)被災患者の避難・移送−被災地域内において治療のできない患者を全米の指定     された地域へ搬送  ( 3)NDMS参画病院による病院医療の提供−被災患者の受け入れに合意している医療    施設ネットワークの病院に被災患者を収容し、医療を提供 4 NDMSの対応想定災害と病院収容能力  ( 1)対応想定災害−NDMSが対応を想定している災害は、地震等の自然災害、工業関連    災害、難民、アメリカに避難・収容する戦争傷病者等広範囲に渡る。しかし、核    戦争に伴うものについては想定していない。  ( 2)病院収容能力−NDMSで治療対象キャパシティとしているのは約11万人(床)であ    る 5.NDMSの管理区域 ( 1)NDMS では、全米の107の都市地域を設定し、次に示す災害医療ベッドの 整備、調整センターの設置及び災害医療用空港利用体制の整備を図っている。 ( 2 )災害医療用ベッドの整備−フルレンジでの一般医療及び外科治療を提供可能な    医療施設に設置される最低で2,500の救急医療用ベッド ( 3 )NDMS調整センターの設置−NDMS 参画の政府及び民間病院の参画推進、    NDMS参画病院と搬送手段、通信、その他のリソースの連携の確保・調整機能を    持つ調整センターの設置: 全米で74の調整センターが設置、この内、32が    国防省所属であり、40が退役軍人省所属のものとなっている。          ( 4 )災害医療用空港利用体制の整備−区域内に患者搬送用航空機の利用可能な空港 利用体制の整備 ( 5 )NDMS の管理区域及びNDMS調整センターの設置場所については、図1を参照。 図1NDMS管理区域 6.NDMS調整センターの機能  ( 1 )調整センターは、連邦の病院( 軍の病院 )若しくは地域の救急医療エージェンシー     がこれにあてられている。実態からいえば、米軍の病院が調整センターとして 主要な役割を果たしており、この面から見ても、NDMSでの軍のウェイトが高い ものとなっている。 図2NDMS調整センターの配置状況  ( 2 )調整センターの主要機能     A.当該地域の非連邦病院のNDMSへの参画の推進とその維持     B.NDMS参画病院・組織の被災患者受け入れ体制の整備、搬送体制整備及び      各種通信手段の計画・整備     C.災害発生時における当該地域への被災患者の受け入れと配分調整 7.災害医療援助チーム( DMAT)の組織と機能  ( 1 )DMAT の組織−DMATは1チーム、約35名のボランティアで構成され、医師、     看護婦、関連技師及びその他の保健・医療専門要員並びにサポートスタッフが     含まれる。DMATはNDMS への参画病院、参画ボランティア組織、保健・医療     団体が組織している。  ( 2 )DMATの組織チーム数とその配置状況−全米で64のDMATが組織され、この内     の非連邦ベースのDMATの配置図は、図3に示すとおりである。       図3非連邦ベースのDMAT:災害医療援助チームの配置図  ( 3)DMATの機能−被災地へ急派され現地での医療の提供、必要医療資材・機器の     搬入、食料、水、その他の保健・医療必需物資の搬入、通信の確保、域外治療     患者の搬送調整・対応、被災地外の患者受け入れ地での患者受け入れ  ( 4 )DMATの訓練−DMATのチームメンバーは、組織体として、災害に対応すべく     訓練することとされており、前記のNDMS参画病院等により、毎年、3日間から     なる短期訓練コース及び災害医療の実務訓練をうけることとなる。これらは、     地域災害対応訓練の一環をなすものである。  ( 5 )DMAT以外の特別チーム−Special Teamとして、小児科、火傷、災害埋葬サービ     ス( Victim identification を含む)、都市捜索・救助及びメンタルヘルスがある。 8.NDMS と医療施設  ( 1)病院のNDMSへの参画は、ボランタリーベースによりなされるものである。  ( 2 )参画病院は、NDMSが活動状態になった時、災害時において、最低及び最大     提供可能災害用ベッド数を示した合意のメモランダムを実行することで、     NDMS参画病院としての機能を果たすことになる。なお、実際に災害用として     提供されるベッド数については、その時の病院の運用事情で変更対応可能と     なっている。又、これについては法的義務を伴う性質のものではない。  ( 3)NDMS参画病院は、毎年、災害医療訓練に参加するものとされている。  ( 4 )全米での、NDMS参画病院数は、1,800である。 ( 5 )各州別のNDMS参画病院数は、図4に示すとおりである。   図4州別NDMS参画病院数 : 非連邦病院分  ( 6 )NDMS参画病院の役割として、求められている機能は、NDMS へのボランタリー     ベースでの病院医療機能の提供、NDMSの地域調整センターへの災害医療用     利用可能ベッド情報の提供、被災患者の治療及びNDMSの災害医療訓練への     参加である。  ( 7 )NDMS参画病院については、都市地域の病床数が100以上の病院に参加を     求めて整備している。  9.NDMSでの活動支援  ( 1)財政支援−NDMSの活動において提供した医療サービスについては、その医療費     が補填されるものとなっている。( 医療費請求書ベースで補填)  ( 2 )搬送・輸送−NDMSの災害医療援助チームの投入搬送、医療資材・機器の輸送、        被災患者の医療提供地点までの搬出・搬送を迅速に実施する体系的体制がとられる。     搬送手段としては、軍及び民間の航空機の利用が基本となっている。     被災患者の被災地外NDMS病院への搬送システム体系図については、図5を参照     されたい。    図5被災要治療患者の被災地外NDMS病院への搬送システム体系  ( 3 )機器・資材の確保・供給−被災地域に投入する機器については、政府及び非政府の     余剰機器を調達・確保する。医療資材についてはNDMSの稼動とともに、連邦の     資材保管所(Federal Depot )に対して発送オーダーがなされ確保されることとなる。  ( 4 )通信−通信手段については、政府系・非政府系のリソースを、NDMSで計画した     ものにしたがって活用し運用する事となっており、一般的通信手段である電話 回線の切断等通信不可の場合は、無線が優先して使用される。このため、災害用 無線チャンネルの割り当てがなされている。 10.NDMSへの関係団体支援体制   NDMSを支援する関係団体は次の通りである。  ( 1)アメリカ医師会 ( AMA) ( 2 )アメリカ病院協会 ( AHA) ( 3 )アメリカ救急医師会 ( ACEP) ( 4 )アメリカ保健医療管理者協会 ( ACHE ) ( 5 )アメリカ州救急医療部長協会 ( NASEMSD ) ( 6 )その他の主要州及び地方関係組織 11.NDMSの活動開始と活動調整  ( 1 )大規模災害時においては、当該州知事が、1988年災害救助法に基づき、連邦の     支援を要請する。大統領は、大規模災害又は非常事態宣言を行う。  ( 2 )上記の大統領宣言が、FEMAによる一連の連邦政府対応を開始させる。これには、           NDMSの連邦レベルの対応も含まれる。  ( 3 )NDMSは、州保健部長の要請に基づいて、保健・福祉省の保健次官が活動を開始     させることが可能となっている。(上記の大統領宣言の行われていない場合。) ( 4 )国家安全にかかわる非常事態の場合は、国防長官が、NDMSの活動を開始させる     権限を有している。  ( 5 )NDMSの活動開始により、NDMSの運用支援センター( NDMSOSC)が、連邦の     対災害保健・医療支援活動の調整を行うこととなる。  ( 6 )NDMS運用支援センターは、保健・福祉省、国防省、FEMA、退役軍人省、     アメリカ赤十字及びその他の連邦・民間関係機関で構成されている。 12.NDMSのシステムと運用のポイント  ( 1 )全国をカバーする災害医療システムとして組織され、各参画機関がその有する機能     を最も効果的に発揮するようリソースを活用するものとしている。−航空輸送の     主たる部分を実質的に軍が担当する等。 ( 2 )公的部門に民間部門をボランタリーベースで組み合わせる組織化の発送に基づい ている事。−病院のNDMSへの参加、災害医療用ベッドの提供・確保、災害医療     訓練への参加等。  ( 3 )災害医療の提供体制は、通常の救急医療の延長にあるものでは無く、特異な災害     環境下、すなわち、医療機関、搬送手段、通信、機器・資材の確保が正常になし     得ない状況下のものと位置付けられ、対処・運用するものとされている。  ( 4 )被災地域内では、医療機関の医療提供機能は不全化し、しかも、多数の被災患者が     発生する事を前提とし、災害地域外においてでないと要治療被災患者への効果的     医療は提供できない事を踏まえ、航空機による迅速な患者搬送体制とNDMS病院     による患者収容と病院医療の提供の連携が図られ、運用されるシステムとなって     いる。  ( 5 )輸送手段の確保については、航空機による事を基本とし、実質的には、強力かつ     悪環境対応能力の高い軍の航空輸送力の活用を図るものとなっている。又、この     機能の発動については、NDMSの組織・運用に軍が直接参画している事から、     必要時に直ちに行ないうるシステムとなっている。  ( 6 )NDMSでの活動調整は、当該地域レベル、広域のレベルでリンクを取って     行われている事から、災害の状況により、地域レベルで対応が不可能な状況      となれば、地域レベルのコーデイネーションチームから広域レベルのコーデイ      ネーションチームへ通知する事で、直ちに広域レベルでの活動が開始される     ものとなっている。  ( 7 )災害医療対応病院が全国的に整備・ネットワーク化されており、ここでの災害     医療用緊急ベッドの確保、災害医療援助チームの組織化がなされ災害医療の訓練     が定期的に実施されている。  ( 8 )被災地へは、被災地外から災害医療チームが派遣・投入され、医療の提供、     要搬送・治療患者の把握と搬送処置がとられるシステムとなっている。又、     このチームは、被災地域へ、必要機器・医療資材、食料、水、その他の必要     資材とともに投入される。  ( 9 )通信手段については、電話回線は被災地域では、切断・不通となる事を前提に     NDMS関係機関、チーム間では、無線を活用することとしており、病院での     無線機の整備と災害通信用チャンネル割り当てが図られている。  ( 10)災害時の医療資材の確保・投入のため、連邦の資材保管所の資材が直ちに      活用できるシステムとなっている。  ( 11)被災地域での保健・医療での調査については、関係機関( CDC, NCEH等)により     災害の進行ステージに対応して、災害発生直後の基本傷病とニーズ把握調査から     災害鎮静後の死傷原因などの把握・分析のための詳細調査まで実施され、災害の     進行に対応した適切な災害医療・環境・保健対策の実施と今後の災害対策の     資料を収集・確保するシステムとなっている。 

注  意

本資料は、1995年に調査しとりまとめたものです。利用にあたりご注意ください。
本資料の著作権は、Masumi Akagiが保有しています。無断転載等を禁じます。
他で引用して利用される場合は、本資料名を明示してください。

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